2016年9月26日月曜日

7.カラオケ行かなくちゃ!

 広告代理店の仕事はいつも締切りに追われている。明日のプレゼンは先週急に入って来たデカイ案件で、うちの課の8人が役割分担してそれぞれ作業を進めていた。グラフィックやコピーの担当からデータが昨夜遅くにパソコンの共有ドライブに集まっており、僕と絵里子がそれらをまとめて今日企画書として完成させる手はずになっていた。

よーし!と気合いを入れて共有ドライブを開けデータの取り込みを始めたところで、机に置いてあったスマホがブルブルと振動を始める。手に取ると由香の表示。おっとこれは大変。スマホを持って立ち上がりまた廊下へダッシュ。慌ててタッチすると、
「あ、博志?だめでしょ、勤務時間中に電話しないでって言ってるでしょ!」
  いきなり責められテンションが下がる。
「そりゃそうだけどさぁ・・・緊急事態だから・・・」
「でも、仕事中にかけられても困るのよ。周りも見てるでしょ。博志の気持は勿論わかってるよ。私だってどうしたらいいかわからないのよ。博志と同じ気持なの。でも今日の夜は大丈夫なんでしょ。私カラオケ行きたいんだよね。最近歌ってないし。笹部みはるの『JOY』練習したんだ。YouTubeで1時間も。もう完璧なんだから。せっかく練習したのに歌わないで死ぬなんて絶対イヤなの。ねぇ、サビのハモリんとこ博志も練習しといてよ。あそこが一番カッコイイから。じゃぁお願いね。7時に八重洲の『コーラス』予約しとくからね」
ガチャ、プープープー・・・。小さい嵐のような由香の電話。自分の言いたいことだけ言ってふいに切れた。
はぁぁぁぁぁーと大きなため息が出る。カラオケねぇ・・・。地球最期の日にカラオケかぁ。何故こんな日に由香とカラオケでデュエット?まぁいいけど。
しかし、待てよ。笹部みはるのJOY全然知らねぇし。笹部みはるは知っててもJOYねぇ、そんな曲あったかな・・・。
 由香は優しくて良い子なんだけど、頼んだことを僕がすっぽかすと異常なテンションで怒るのだった。昼休みにYouTubeで覚えとかないと大変なことになるな・・・。


0 件のコメント:

コメントを投稿

主な登場人物
小西博志:主人公。広告代理店勤務のサラリーマン。
桜井由香:博志の彼女。商社勤務。
桑田課長:博志の上司。あだ名は瞬間湯沸かし器。
村上:博志の同僚。同期。
黒田:博志の同僚。同期。
小杉絵里子:博志の同僚。ペアを組んでいる。