2016年9月20日火曜日

4.遅刻

 イライラしながらエレベーターを待って、11階のフロアに着くなりドアに飛びつきガバっと開けるとフロアに入った。
「すんません!遅くなりました!」
課長の席へ向かいながら叫ぶ。桑田課長は遅刻が何より嫌いだから、こういう時こそ元気よくやらなくてはいけない。今まで散々痛い目に遭ってきた経験が生きる局面だ。
「何やってんだ、小西ぃ!7分も遅刻しやがって!」
イメージ通りの桑田課長の怒鳴り声。
「いや、ちょっと、今日で地球が終わるらしくて・・・」
「それがどうしたんだ!」
輪をかけて怒鳴りつけられた。それがどうしたって言われてもなぁ、と思ったが口答えすると余計ややこしくなるので我慢した。
「申し訳ありませんでした。以後決してこのようなことは」
勿論以後はないのだが、慣用句である。
「よしわかった。気をつけろよ」
いつもよりあっさり許す桑田課長。やっぱり地球の終わりだからか、と納得すると同時に、今までで一番の現実感が込み上げて来た。課長がこの程度で許すのはやっぱ異常だよな。ホントに地球は終わりなんだな、と。
課長に一礼して席を離れ、ドアに近い自分の席に腰を下ろすと、後ろからポンっと肩を叩かれた。
「また、やられたな」
振り向くと隣の課の村上だった。いたずらっぽい笑いを浮かべている。
「まったくさぁ・・・。朝テレビを付けたら地球が終わるって言うから田舎の母に電話してるうちに遅くなっちゃってさ」
「そうか、そうだよな。俺もさっき来たばかり。みんないつもより遅かったみたいよ。急にあんなこと言われちゃさ、気持ちの整理がつかないよな」
みんなそうだったんだとちょっと安心する。
「でもさ、何で急にこんなこと発表してるわけ?もっと早く分かってたんだろ」と訊いてみると、
「勿論分かってて、アメリカが中心で対策を講じてたらしいんだけど、結局どうしようもなかったらしい。アルマゲドンみたいなわけには行かなかったってことだな」
村上は淡々と答えた。
そう言えばアルマゲドンでは小惑星の地中深く核爆弾を仕掛けて爆破してたもんな。あれはやっぱり映画の中の話ってわけか。
「そうか。ホントに終わりなんだな・・・」
更に現実感が強くなり、急に胸が締め付けられて来た。そうだ由香だ、由香に電話しなくちゃ。
「じゃあまた後で。昼一緒に行こうな」
村上の言葉に右手を上げて応えながら思い出す。そうだ由香に電話しなくちゃ!



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主な登場人物
小西博志:主人公。広告代理店勤務のサラリーマン。
桜井由香:博志の彼女。商社勤務。
桑田課長:博志の上司。あだ名は瞬間湯沸かし器。
村上:博志の同僚。同期。
黒田:博志の同僚。同期。
小杉絵里子:博志の同僚。ペアを組んでいる。