僕はそっと席を立つと廊下に出た。スマホを取り出して着信履歴から由香をタッチする。早く声が聴きたい。ワンコールで由香が出た。
「桜井です」快活な声。
「大変なことになったね。今大丈夫?」
「いつも有り難うございます。ただいまちょっと取り込んでおりますので、後ほど当方からお掛け直しいたしますがよろしいでしょうか?」
打ち合わせ中かな。由香は営業をやってるから、打ち合わせが多いっていつもこぼしてたっけ。でもこんな時になぁ・・・。
「わかった。じゃあ待ってるね」
「有り難うございます。それではよろしくお願いします」
由香は最後まで営業スマイル的なトーンで電話を切った。ふぅー、とため息が出る。真面目でしっかり者の由香。仕事は常に全力投球。会社でも笑顔で頑張ってるんだろうな。
由香とは3年前に村上がきっかけで知り合った。村上が由香の勤めている商社を担当してて、合同で飲み会をする企画が持ち上がり僕と黒田にも声がかかったのだ。その10人ほどの飲み会で僕たちは知り合いメルアドを交換した。
僕は福島の出身で大学から東京に出て来ていたが、由香も仙台の出身で同じ東北の生まれということもありすぐに打ち解けた。しばらくメールのやりとりをするうちに二人だけで会うようになり、由香の人柄に魅かれ付き合うようになった。小柄で可愛いのは僕のタイプだが、ブランド志向ではなく自分のセンスをしっかり持っている由香の価値感が僕の感性にぴったりだったのが決め手だった。
あれから3年、真面目だが怒り出すと止まらない由香の性格でピンチもあったが、去年の秋に福島に一緒に帰り、実家の母にも紹介し結婚に賛同してもらっていた。由香の両親にもこの正月に挨拶に行った。二人ともとても優しい人で歓迎してもらい、また弟さんと妹さんともお話しすることができて嬉しかった。僕は一人っ子だし、父が5年前に亡くなっていたから親族が増えることはとても心強いことだった。長男、長女の結婚でハードルもあるのかな、と心配したが、みんなに温かく迎えていただき心から感激した。だからホントにもうすぐだったのだ。はっきりとは決めてはいなかったけど、来春くらいに式を挙げることになるのかな、と二人とも思っていたのだ。まさかこんなことになるなんて・・・。
僕は福島の出身で大学から東京に出て来ていたが、由香も仙台の出身で同じ東北の生まれということもありすぐに打ち解けた。しばらくメールのやりとりをするうちに二人だけで会うようになり、由香の人柄に魅かれ付き合うようになった。小柄で可愛いのは僕のタイプだが、ブランド志向ではなく自分のセンスをしっかり持っている由香の価値感が僕の感性にぴったりだったのが決め手だった。
あれから3年、真面目だが怒り出すと止まらない由香の性格でピンチもあったが、去年の秋に福島に一緒に帰り、実家の母にも紹介し結婚に賛同してもらっていた。由香の両親にもこの正月に挨拶に行った。二人ともとても優しい人で歓迎してもらい、また弟さんと妹さんともお話しすることができて嬉しかった。僕は一人っ子だし、父が5年前に亡くなっていたから親族が増えることはとても心強いことだった。長男、長女の結婚でハードルもあるのかな、と心配したが、みんなに温かく迎えていただき心から感激した。だからホントにもうすぐだったのだ。はっきりとは決めてはいなかったけど、来春くらいに式を挙げることになるのかな、と二人とも思っていたのだ。まさかこんなことになるなんて・・・。
気がつくと僕はスマホをぎゅーっと握り締めていた。由香のことを思うと胸が締め付けられる。由香は今日も会社に普通に行って忙しく仕事してるみたいだ。みんなそうなのかな。母も課長も由香もみんなほとんど普通で、いつもと変わらない一日を過ごそうとしている。泣きわめいたり、取り乱したりせずに、ただ淡々と普通の一日を始めている。そういうもんなのかな。考えたこともないからわからない。しかし、僕はどうすればいいのか。最後の一日はあと11時間半・・・。
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