2016年9月15日木曜日

2.本日地球最終日?!

見慣れたいつものアナウンサーはいつもと表情を変えることなく淡々とマイクに向かっていた。
「先ほどもお伝えしましたように、本日夜9時頃に地球は終わりとなる見通しとなりました。人類の最期を我々が看取ることとなった責任を噛みしめて、今日一日皆さんと一緒に元気に過ごしたいと思います。それでは今週のお天気です」
画面が各地の天気予報に切り替わる。全国ほとんど晴れマーク。
「それでは一週間のお天気です」
一週間って、今日で終わりなんじゃないの?未だ全然廻らない頭で思わず突っ込む。しかし、国営放送でこんな冗談言うのか?ハッと気づきチャンネルを4に切り替える。
「本日地球最終日」のタイトル。地球最終日だぁぁぁぁぁ?!そんな言葉聞いたことないし。聞いたことある方がおかしいが。
よく見る女性のアナウンサーがにこやかにコメントしていた。
「小惑星の衝突ということで、本日夜9時頃に地球滅亡と発表されたわけですが、山田さんどのようにお感じになりますか?」
「そうですねぇ、確かに状況を確認してみると間違いないようですね。まぁ仕方ない、ということになるんでしょうね」
新聞社の主筆とかいう50過ぎくらいのオヤジが、重々しい雰囲気で答える。
仕方ないったって・・・。


 どうやら小惑星が地球に衝突するらしい。しかし何で急にそんな話になるのか。テレビ局がつるんでドッキリでも仕掛けてるんじゃないのか。リモコンでチャンネルを次々替えてみるが、5も6も7も8もみんな同じだった。
地球最期の日。リアルに本当らしい・・・。

ハッとしてスマホを探す。ダイニングテーブルの上にあったので、慌ててアドレス帳から田舎の福島で一人暮らしをしてる母を呼び出しタッチする。トルルルルー、トルルルルー・・・。
「ハイハイ~小西ですけどぉ~」相変わらずのんびりした母の声に何となく安心する。
「あ、かあちゃん、俺、博志」
「あら、なんだべね、こんな朝っぱらから珍しい」
「珍しいも何も地球が終わるってテレビで言ってたけど知ってる?」
母は慌てる様子もなく、
「あー、そのことね。びっくりしたねぇ。でもよ、ま、みんな一遍にっつぅんだったらしょうがねぇべした。あんたやあたしだけっつぅんだったらいやだけどもね」と言う。
 まぁ、そう言われてみればそんな気もするが、今日でみんな死ぬっていうのにこんなに落ち着いていられるものか。それとも僕がおかしいのか。
「まぁ、そりゃそうだけどさ。でもホントにホントなのかね」
「朝からテレビでずーっと言ってっから、ホントなんだべね。まぁ、仕方ねぇべした。そろそろケンタの散歩いくからまたね」
ケンタは5歳の柴犬で、父が脳卒中で倒れ亡くなった直後に母が飼い始めたパートナーだ。母は父の生まれ変わりと公言して可愛がっている。
「わかったよ。じゃぁ切るよ。じゃ元気でね」
「はいはい~、博志もね」
電話を切って思う。口癖で出てしまったが元気でね、ってさ・・・。
 由香にも電話しなくちゃ!更に慌てて着信履歴からタッチ。
 トルルルルー、トルルルルー・・・。呼んでいるものの出ない。そのうち留守電に切り替わった。どうしたんだろう、と思っていたらメールが着信。
「おはよう。今電車だから出れません。博志も遅刻しないようにね」
遅刻?!どうやら由香は普通に出勤途上らしい。しかしこういう時は会社に普通に行くものなのか。経験がないから判断できない。時計を見ると8時を過ぎている。やばっ!
条件反射で身体が動く。Yシャツを着て1分で髭を剃り、顔を洗って歯を磨く。寝ぐせでクチャクチャの髪にハードムースを付けて何とか整える。その間たったの5分。ネクタイを締めて鞄を抱えて家を飛び出したのは8時20分過ぎだった。
このままじゃ遅刻だ。課長の怒鳴る顔が目に浮かぶ。課長の桑田のあだ名は瞬間湯沸かし器。小さなことですぐかっとなり、怒鳴り散らす。慣れてはいるがめんどくさい。僕は駅までの徒歩十五分の道を全力でダッシュした。何とか間に合ってくれ~、と心の中で叫びながら。

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主な登場人物
小西博志:主人公。広告代理店勤務のサラリーマン。
桜井由香:博志の彼女。商社勤務。
桑田課長:博志の上司。あだ名は瞬間湯沸かし器。
村上:博志の同僚。同期。
黒田:博志の同僚。同期。
小杉絵里子:博志の同僚。ペアを組んでいる。