「小西さん、明日のプレゼン資料まだ出来てないですよね。課長がさっきどうなったって訊いて来たんですけど」
おー、そうだった。昨日木下たちと飲みに行ってしまうことにしたので、今日は早朝出勤でとっかかろうと思ってたんだっけ。すっかり忘れて目覚ましも普通にかけてしまってた。いかんいかん・・・。
しかし、と思い直す。明日のプレゼン?!
しかし、と思い直す。明日のプレゼン?!
「明日って、プレゼンはないよね」
絵里子は平気な顔で、
「そりゃそうですよ。今日で地球は終わりなんだから。でも課長は仕事はそういうもんじゃないって。いくら言っても無駄だと思いますよ」
と言ってニコッと笑った。
そういうもんじゃなければ一体どういうものか。ありもしないプレゼンの為に今日一日はっちゃきになって資料を作るのはどうなんだろう。って言うか無駄だよね。だんだん腹が立ってくる。一体みんなどうなってるんだ。
僕はすっくと立ち上がり、大股で課長の席に向かった。怒りが普段では考えられない強気な行動に僕を駆り立てていた。桑田課長の前で仁王立ちになった僕は、パソコンで作業をしている課長を睨みつけてこう言った。
「課長!ありもしないプレゼンの為に大切な一日を無駄にするのはおかしいと思います!」
桑田課長は驚く様子もなくパソコンから顔を上げ老眼鏡を外し、座ったまま僕を見上げた。そして目を細め僕の顔を見た。鋭い眼光に射すくめられドキッとする。この目をした時はカミナリが落ちるんだった。経験則が瞬間的に僕の首を縮めさせる。
「ばっかやろぉぉぉぉぉ!」
50人くらいのフロアに響き渡る桑田課長の怒号。全員がぐわっとこっちを見る気配が空気を震わせる。
「小西ぃ!お前はまだわからんのかぁ!」
思わず一歩後ずさりする気弱な僕の足。
「仕事の基本はな、お客様の為に努力することだ。最大限に努力できるかどうかだけが我々が意識する唯一のことだ。後は関係ない。仕事が取れるかどうかは結果だ。自分目線で結果だけを考えてるからそういうことを言い出すんだ。まだわからんのか、お前は!プレゼンがあるかないかは関係ない。今日中に資料を作成するのはお客様との約束を守るための最低限のスケジュールだ。お客様との約束は絶対だ。地球の終わりぃ?それがどうした。四の五の言ってる暇があったらすぐとりかかれ!」
火を噴く勢いの桑田課長。怒鳴られると何だか課長の言っていることが正しいような気がしてくる。
「は、はい・・・。申し訳ありませんでした。以後気をつけます」
あー、また言ってしまった・・・。条件反射とは恐ろしい。ベルが鳴るとよだれを垂らすパブロフの犬。桑田課長に怒鳴られると思わず謝る小西博志。これじゃパブロフ小西だよな。すごすごと席に戻ると絵里子が小声で、
「ほーらね、いくら言ってもダメだって」
と言った。仕方ない。やるしかないか・・・。
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