2016年10月3日月曜日

12.最後のプレゼン

それから30分、身振り手振りも加えて熱弁を奮った僕。仕事は地道な努力と瞬発力。気合いを入れればこんなもんだ!ってな感じで、突っ走った。絵里子のフォローも完璧。
「以上です。ご静聴ありがとうございました!」
叫ぶように締めくくると、おー、という歓声とともにメンバーから拍手が沸いた。やったー!終わったー、と絵里子を見ると、大きく頷いて拍手してくれている。やったなー。感概が胸を熱くする。
課長は、と見ると拍手どころか腕組みをして首を45度右に傾け虚空を睨んでいる。え?!このポーズって・・・もしかして・・・ダメ出しの時の・・・。
思う間もなく桑田課長がガバッと立ち上がった。
「小西、お前の仕事には心がない。きれいな花は枯れるだけ。雑草の強さが欲しい・・・」
呟くように言い残すと課長は僕に背を向けてすたすたと出口へと向かう。だめだだめだだめだ。やり直す時間はない。絶対に無理。しかも、そんな抽象的のコメント残して行くなんて、伝説の空手の師匠じゃないんだからさぁ。身体の中から突然湧き出る僕の叫び。魂の叫び。
「か、課長ぉぉぉぉぉ!許して下さいぃぃぃぃぃ!もう時間がないんですぅぅぅぅぅ!」
ドアに手をかけたまま振り向く桑田課長。身体は完全にドアに向かい、顔だけを45度こちらに向けている。眼鏡の奥の目がキラリと妖しく光った。
「お前はわかってるはずだ。これはやっつけ仕事だろ。日本橋広告社はな、山口一成初代社長の時代から、心を売る仕事を続けてここまで来たんだ。お前はこの最後の最後で、初代社長の顔に泥を塗る気か?えぇ?!小西ぃ、泥を塗る気なのかぁぁぁぁぁ?!」
吠える桑田課長。全員の血の気が引くようなこれこそ魂の叫び。僕もぞわっと全身の血が後ろに引っ張られる感覚に倒れそうになる。でも、由香の怒ってる映像がフラッシュバックし、課長に重なる。ダメだ。せめてもうちょっとツメないと。
「課長!どこを直せば!」食い下がる僕。
「やかましい!自分の胸に訊け!」課長は吐き捨てるように言うとドアの向こうに姿を消した。

  

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主な登場人物
小西博志:主人公。広告代理店勤務のサラリーマン。
桜井由香:博志の彼女。商社勤務。
桑田課長:博志の上司。あだ名は瞬間湯沸かし器。
村上:博志の同僚。同期。
黒田:博志の同僚。同期。
小杉絵里子:博志の同僚。ペアを組んでいる。