2016年10月11日火曜日

17.死んでるんじゃないの?

 ポンポンと誰かが肩を叩く。夢かな。しかし夢の主体である僕は溶岩のようなどろどろしたものに焼き尽くされもう溶けてなくなったはず。魂だけ残っているのか。魂でも肩を叩かれると感じるのか。混濁した頭で考える。
「小西!小西!」桑田課長の声だな、これは。
 僕は怖々目を開けた。天井の蛍光灯と僕と見下ろす桑田課長が見えた。
 え?僕はフロアに仰向けに倒れていた。
「大丈夫か?」
「あ、課長。僕は死んでるんじゃないんですか。さっき爆発が起きたじゃないですか」
 桑田課長は安心したように少し微笑んで、
「爆発なんて起きなかったぞ。急にお前が振り返って、びっくりしたような顔をして気を失ったから驚いたよ」と言った。
 そんなバカな。僕が見たのは幻だったと言うのか。時計を見ると9時10分。
「でも課長、惑星の衝突はどうなったんですか?」
「それがな、どうやら回避されたらしいんだ。9時15分から首相の会見がテレビであるってネットに書いてあったぞ」
 回避された?!何故なんだ?!と思うと同時に猛烈な安堵感でまた気を失いそうになる。
「会議室行くぞ」
 テレビのある会議室に向かって課長が歩き出した。起き上がり、慌てて後を追う。
 課長が椅子を二つテレビの前にセットし、リモコンを操作して会議室のテレビを付けた。
「おう、お前も座れ」
 課長の言葉に、ありがとうございます、と返して並んで座る。ほどなく矢部首相が会見台に現れた。深々と頭を下げると大きく息を吸い込んで思い切ったように話し始めた。

※小説主題歌「地球最期の日」はこちら(音声のみです)



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主な登場人物
小西博志:主人公。広告代理店勤務のサラリーマン。
桜井由香:博志の彼女。商社勤務。
桑田課長:博志の上司。あだ名は瞬間湯沸かし器。
村上:博志の同僚。同期。
黒田:博志の同僚。同期。
小杉絵里子:博志の同僚。ペアを組んでいる。